私たちが生きているこの世界は、常に変化し続けています。
たとえば、朝起きて窓を開ければ、空の色や雲の形、風の匂いが昨日と違っていることに気づきます。近所の川の流れも、同じように見えても、刻一刻とその水は入れ替わり、かたちを変えています。
自然界は、決して「昨日と同じまま」ではありません。私たちの暮らしの中でも、同じスーパーへ行っても並ぶ野菜が季節によって変わり、子どもの身長が知らぬ間に伸び、気づけば自分の髪に白いものが混じり始めている。
日々の中には、小さな「変化」が満ちています。
つまり、変化こそが、この世界の「前提」なのです。
変化を前提とした視点──仏教と科学の共通点

仏教には「諸行無常」という言葉があります。これは、「この世のすべては常に変化し、同じ状態であるものはない」という真理を表しています。
人は生まれ、成長し、やがて老い、死を迎えます。それは誰一人として避けられない変化であり、生きているということ自体が「変わり続けること」ともいえるでしょう。
また、科学の世界でも、この考えは裏づけられています。たとえば、私たちの体の中にある細胞は、日々少しずつ生まれ変わっています。肌や血液、内臓の細胞も新陳代謝を繰り返し、約数年でほとんどの細胞が新しいものに入れ替わっているとも言われます。
つまり、10年前の「私」と今の「私」は、物質的にはすでに別の存在と言っても過言ではありません。
それでも、私たちは「私は私だ」と感じ続けています。それはなぜでしょうか?
2.『テセウスの船』と“わたし”の定義
「私は私だ」と感じ続けるのはなぜか。この問いに対するヒントとして、哲学の有名な思考実験である『テセウスの船』があります。
ギリシャ神話に登場する英雄テセウスの船は、損傷するたびに木材を交換していった結果、すべての部品が新しいものに取り替えられました。
すべての部品が新しいものに還られても、それは「それはテセウスの船と言えるのか?」「古い部品を組み合わせて作られた船が、テセウスの船と呼べるのではないか」という問いが投げかけられています。
この話を私たち自身に置き換えてみると──細胞が入れ替わったとしても、記憶や思考、そして「私であるという感覚」がある限り、「私は私だ」と感じています。
つまり、「わたし」とは、物質的なパーツではなく、「意識」や「意味づけ」によって成り立っている存在なのかもしれません。
この世界で“変わらないもの”とは?

面白いことに、そんな「変化が当たり前の世界」において、私たちの身体には「変化しないように保とうとする機能」も備わっています。
たとえば、暑いときには汗をかいて体温を調整したり、心拍数や呼吸を一定に保とうとする。このように、身体は常に「一定の状態を保つ」働きをしています。これを「ホメオスタシス(恒常性)」と呼びます。
冷たい飲み物を急に飲むとお腹を壊すように、身体にとって急激な変化はストレスになります。だからこそ、一定の状態に保つための調整機能が備わっているのです。
しかしここに、ある「矛盾」が生じます。
つまり、世界は常に変化しているのに、身体はそれに抗って“変わらないように”保とうとしています。
もしかすると、私たちの生命活動の前提にある矛盾が、人生における「苦しさ」や「葛藤」の原因なのかもしれません。
変化に身を委ねたい気持ちと、変わらずにいたい本能。そのせめぎ合いが、私たちの人生において避けがたいテーマとなっているのです。
4.肉体・思考・意識という三位一体
では、私たちはどのようにこの世界を体験しているのでしょうか。
私は、「肉体」「思考」「意識」という三つの側面が、一人の人間を形づくっていると考えています。
肉体は、目で見る、耳で聞く、手で触れるといった五感を通じて、この物質世界を体験する“ツール”です。
思考は、五感から得た情報を「意味づけ」する機能で、自分の過去の記憶や経験と照らし合わせて「これはこういうことだ」と理解します。この思考することにより、私は”私の現実”をつくりだしてもいます。つまり”私の世界は、私の思考が創っている”とも言えるわけです。
意識は、もっと奥深いもの。感情や思考から少し離れて、ふと「我に還る」ような瞬間があります。例えば、怒りや不安に飲まれていた時に、「あれ?私、何をそんなにイライラしてたんだろう」とふと冷静になる。その時こそ、「意識」が表に出てきた瞬間かもしれません。
この意識は、私という個の中にあると同時に、他者や世界ともつながっていると言われています。
たとえば、ふとある人を思い出した瞬間に、その人から連絡が来た。あるいは、道を変えたことで偶然、再会があった。そんな経験はないでしょうか。
これは心理学者ユングの言う「集合的無意識」や、「虫の知らせ」といった現象と深く関わっていると考えられます。

私たちは、変化する世界の中で、「変わらないこと」にも価値を見出そうとする存在です。
しかし、実は「変わること」を受け入れ、「変化を前提に生きる」という視点を持つことで、もっと楽に、もっと自分らしく生きることができるのではないでしょうか。
では、そんな世界のなかで、私たちはどう生きていけばいいのか
それについては、次の章で一緒に考えていきたいと思います。
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