私たちは、自ら選んでこの世に生まれてきたのかもしれません。生まれる前に「こんな人生を歩もう」と決め、その決定が私たちの『宿命』となる。それは、自分が生きる上での前提条件ともいえるものです。
宿命とは、例えば生まれ持ったハンディキャップ、家庭環境、育った地域や国のように、この世に命を宿した時の人生の設定条件です。たとえば、生まれつき足が不自由であれば、それが宿命となり、歩くことに制限が出るかもしれません。あるいは、商売を営む家に生まれ、小さい頃から家業を手伝う生活が当たり前だった人もいるでしょう。また、裕福な家庭で何不自由なく育った人や、貧困に苦しむ国で生まれた人もいます。これらはすべて、自分で選んだわけではなく(もしかしたら、生まれる時に自分で選んだことかも知れませんが)、人生のスタート地点として与えられた条件です。変えられないものとして受け入れるしかない、それが宿命です。
しかし、私たちの人生は、単なる宿命だけで決まるものではありません。生まれてからの経験や体験を通じて、私たちはさまざまな記憶を刻み、その記憶が固定観念となり、人生の方向性を形作っていきます。これを『運命』と呼ぶと私は考えています。しかし、この運命とは、実は自分の思考が生み出したものなのです。
記憶が生み出す人生の苦しみ

人生で辛いことや苦しみを感じるとき、それは出来事そのものが原因ではなく、その出来事に対して私たちがどのような意味を与えたかが大きく影響しています。出来事自体には本来、意味はありません。私たちがそれに意味づけをし、そこに感情を乗せて、記憶として刻まれるのです。
例えば、幼少期に親から厳しく叱られた経験を「愛されていない」と解釈した人は、自分に自信が持てなくなるかもしれません。しかし、「親が私を思って厳しくしてくれた」と捉え直せば、その記憶は成長の糧となり、自信に繋がることもあるのです。
また、貧しい家庭に生まれたことで、常にお金の不安を抱えていた人が、「自分は何をやってもうまくいかない」と思い込んでしまうこともあります。しかし、その経験を「自分は努力をすれば乗り越えられる」と捉え、挑戦し続けることで、人生を切り開いていくこともできるのです。
一方で、裕福な家庭に生まれたからといって、必ずしも幸せになれるわけではありません。幼少期から甘やかされ、苦労を知らないまま育つと、社会に出たときに自分で物事を決めることができず、挫折してしまうこともあります。こうした環境が運命を左右するのではなく、本人がどのように受け止め、行動していくかが重要なのです。
人生を変える鍵は意味づけの変化

私たちの記憶は、すべて「自分の意味づけ」によって形作られています。喜びや悲しみさえも、意味づけ次第で変わります。だからこそ、人生を変えたいと思うなら、過去の出来事の捉え方を変えることも一つの方法です。
例えば、何かに挑戦したけれど失敗してしまったとき、「自分には才能がない」と思うのか、「この経験を通して学びがあった」と思うのかで、その後の行動は大きく異なります。前者の考え方なら、次の挑戦を躊躇するかもしれません。しかし後者なら、「次はこうすればうまくいくかもしれない」と再び挑戦できるのです。
宿命は変えられません。しかし、運命は変えることができます。過去の経験をどう解釈し、どのような記憶として持つかを選び直すことで、私たちは自らの人生の方向性を変えられるのです。
心の置きどころを変える

思考の捉え方を変えることは、心の置きどころを変えることでもあります。どんなに辛い経験があったとしても、それを「自分にとって必要な学びだった」と受け止めることができたなら、心の安定を得ることができます。
たとえば、生まれつきの障害を持つ人が「自分は何もできない」と思うのではなく、「この状況だからこそ、自分にできることを探そう」と考えたとき、まったく違う人生が開けていきます。実際、身体的なハンディキャップを持ちながらも、スポーツや芸術、ビジネスの分野で成功している人はたくさんいます。彼らは、自分の宿命を受け入れつつ、それをどう活かすかに意識を向けたからこそ、自らの運命を切り開いてきたのです。
大切なのは、過去の記憶を手放すのではなく、その意味づけを変えることです。そして、目の前におきる出来事にたいしても、自分がありたい状態へと繋がる意味づけをして、記憶に刻んでいくことが肝要です。私たちは、自らが望む人生を生きる力を持っています。そのためには、まず自分の心の置きどころを見つめ直し、望む方向へと少しずつ歩んでいくことが大切ではないでしょうか。
『人は今この瞬間からでも、運命の方向性を変えることができる力が備わっている』と私は信じています。


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