私たちは日々、記憶の中を生きていると言っても過言ではありません。そして、過去の出来事を思い返すと、それが喜びであれ、悲しみであれ、記憶には必ず感情が伴っています。特に強く心に刻まれた記憶は、感情と深く結びついており、私たちの現在の考え方や行動に影響を与えているのです。
しかし、記憶は事実そのものではなく、「自分の感情の記録」であることを忘れてはいけません。例えば、同じ出来事を経験した二人でも、感じ方が異なれば、記憶の内容も異なります。私たちは過去の記憶を通して、現実を見ていることが多いのです。そして、今この瞬間の出来事さえも、過去の記憶と結びつけて解釈してしまうのです。
記憶がつくる現実

過去の記憶と現在の出来事が結びつくと、過去の感情をともなって、現在の出来事を捉えていきます。そして、その感情に応じた振る舞いを私たちは無意識のうちにしてしまうことがあります。 例えば、「あの人は私を嫌っている」と考えてしまうこと。実際には相手がただ忙しいだけかもしれないのに、過去に誰かに冷たくされた記憶が影響し、「また同じことが起こっている」と思い込んでしまいます。
やっかいなことに、私たちは自分の妄想に対して確信めいた思考を持つことが多くあります。「きっとあの人は私を嫌っているはずだ」と信じ込むと、その証拠を探し始めます。すると、相手の何気ない言動がすべて「やっぱり嫌われている」という証拠のように見えてしまい、ますますその思い込みが強化されていきます。そして、関係がこじれたり、気分の浮き沈みが生じたりすることもあるでしょう。
思い込みから自由になる方法

私たちは知らず知らずのうちに、「自分の思考パターン=他人の思考パターン」だと思い込んでしまうこともあります。しかし、人それぞれ違う記憶を持ち、それぞれの視点で世界を見ています。同じ出来事でも、受け取り方がまったく違うのは当然のことなのです。
この「思い込み」の根本にあるのが、自分の人生の中で作られてきた記憶です。つまり、自分が過去に感じたことをもとに、今の世界を解釈しているのです。
では、どうすればこの思い込みから自由になれるのか。
ひとつの方法は、「判断(Judge)しない」ことにあります。
私たちは、出来事を「正しい」「間違っている」と判断しがちです。しかし、その判断の基準も、また自分の記憶に基づいたものにすぎません。物事を「正しいか間違っているか」とジャッジしないようにすると、思い込みから解放されることがあります。
たとえば、「あの人は私を嫌っている」と考えたとき、その思い込みに気づき、「本当にそうだろうか?」と問いかけてみる。あるいは、「もしかしたら別の理由があるのでは?」と視点を変えてみる。この小さな習慣を持つだけで、私たちの心はずいぶんと軽くなります。
思考を変えれば、世界が変わる

現実そのものは変わらなくても、私たちの見方が変われば、世界の見え方が変わります。
自分の思い込みに気づき、それを手放すことで、今までとは違う世界が見えてくるかもしれません。その変化の方向性は、自分の心の中で意識することが大切なのです。
「自分はどんな世界を生きていきたいのか?」
その問いを持ちながら、思い込みから自由になっていきましょう。
そうすれば、過去の記憶に縛られず、今この瞬間を新しい気持ちで生きることができるはずです。


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