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朋(とも)あり遠方より来たる また楽しからずや~『探究学習』は日本を変えるか?

懐かしい人からの連絡が届き、かれこれ15年ぶりに再会しました。以前に勤務していた学習塾での後輩からなのですが、最近どうしているかな、と考えた数日後にその彼から「お元気ですか」とメールが届いたので驚いた出来事でもありました。

彼は異色の経歴で、理系の大学を出たのですが、諸事情あった後、一念発起して海外留学で英語を学び、帰国後の英語の先生となるための準備期間中に、私が勤務していた学習塾で一緒に働くようになりました。同年代の男性社員がいなかったので、私にとっては本音を話せる同僚ができたことを喜んだことを思い出します。

立場的には、自分が先輩で彼のサポートという役割があったので、時には厳しく注意をすることもありました。まだまだ未熟で、理不尽もあっただろう私の話にも真摯に耳を傾けてくれる後輩でもありました。そんな彼が、教員採用試験に合格し、高校教師となるために塾を辞めるとなったときは、喜ばしいことではあるものの、自分にとっては大切な仲間がいなくなった喪失感もあって、仕事へのモチベーションが下がったことも思い出されます。

そんな彼と再会して、酒を酌み交わし(いやいや、彼は烏龍茶だったか…)、語り合った時間は、自分の考えを話せる満足感がありながらも、彼の話からも色々な気づきや学びがあり、充実した楽しい時間を過ごすことができました。

学習塾という『教育』という職場で一緒に過ごしていたので、話題は自然と『教育』についての話が主となっていきました。その中で、私にとっては非常に興味深い話がありました。それは、『探究』という科目があるということで、彼は今、教員として籍をおきながら、大学院でその『探究』をテーマに学び直しているとのことです。

探究学習とは、児童や生徒が自分で課題を設定し、その解決に向けて情報を集め、整理や分析をしながら、独自の答えを探す学習活動のことです。答えは、児童や生徒によって異なるため、一つとは限りません。

教育新聞ホームページより

『探究学習』の可能性

私が、学習塾で働いていた頃は、いわゆる『ゆとり学習』が始まった頃で、学習指導要領の大きな方針転換の時期でもありました。正直なところ、本当に『ゆとり教育』は大丈夫なのか、と思うような雰囲気もあり、先行して取り組んでいた大学付属の中学校では、『失敗だった』との声もあったと噂されるくらい、教育現場では混乱もあったのではないでしょうか。近隣の進学型の学習塾でも、新しい学習指導要領は無視して、従来の内容で授業を行う、といった情報もあり、子供たちの学力低下を危惧したものでした。

ゆとり教育には、『自ら考える力を養う』とテーマがあったように記憶していますが、本当にそんな力が養うことができるのか、と懐疑的に捉えていました。掲げるテーマは素晴らしいけど、実態と伴っていないと思うことが多く、理想と現実とのギャップが大きいなと思っていました。そんな考えでいましたが、彼が今担当している『探究』という授業には大きな可能性があり、この科目の成熟度が高まれば、これから先、おもしろくも可能性ある人材が世の中に増えてくるのではないかと期待しています。

おそらく多くの人が社会に出て気付くことだと思いますが、生きていく上で大切なことは、『考える力』です。特に多様化が進む現代社会においては、より一層必要なことになっていくことでしょう。AI技術などが発展していけば、定型的な業務はロボットなどで代用されていくわけで、無くなる職業もたくさんあると言われています。ならば、『探究』の学習で学ぶ、様々な状況をとらえ、課題を発見し、その解決策を試行錯誤して見いだしていく力を身につけておくことは、人生を豊かにする上でも大切なことだと捉えています。そんな将来を担う若者を育てていく彼の取組みが羨ましくも思いましたし、彼にとってのライフワークにもなるくらいの素晴らしいテーマではないかとも思いました。

とはいえ、『探究』という学習も、他の英語や数学、国語といった科目がある中での一つであり、多くの課題を抱えていることも事実であるようです。どうしても一般的な受験と考えると『探究』という学習は、受験に直結すると考えにくいのかも知れないですから。確かに『探究』で大学進学する方法もあるようですが、『探究』一本に絞って受験するとは考えにくいのではないでしょうか。

それに『探究』という学習の習熟度を高めるためには、背景となる知識や経験というものも必要になるだろうから、実は総合力が試されている科目でもあると思います。学びの順番の違いかも知れませんが、『探究』でテーマを設定し、調べていく過程で必要となる知識を身につけることもあるかもしれません。実際に社会に出るとそっちの方が多い気がします。ただ、その知識を身につけるためにも、小中高で学ぶ学習の基礎があるのとないのとでは、理解する時間や理解度も異なってくるから、やはり基礎学力を身につけておくことも大切なことだとも思います。

なんのために勉強をするのか

 多くの人が、学校の勉強は意味があるのか、何のためにするのか、と考えたことがあると思います。私も、生徒からこの手の質問を受けることも多くありました。せいぜい、基本的な国語力があって、買い物するときに困らない算数力があれば事が足りる、と考える人もいるかもしれません。

 なんのために勉強をするのか、という問いに『自分のため』という回答もよく聞きました。自分もそんな回答をしたこともあります。今勉強しておかないと、高校受験や大学受験の時に苦労するよ、とか、高校や大学に進学しておかないと良い仕事に就けないよ、今頑張れば自分の可能性を広げることができるかもしれないよ…。そのためにも、今はしんどいけど勉強しておかないと、という具合に。でも、こんな理由で本当に勉強する気持ちになるのかな、とも思いませんか。

 もともと人の本性の中には、知らないことを知るや、出来ないことが出来るようになる、ということに喜びを感じるものがあると思います。小さな子供の成長を見ていると、本当にそう思います。立つことができるようになった、歩くことができるようになった、走ることができるようになった、そんな時の子供の幸せそうな顔を思い出すと、そんな気がしてなりません。でも、出来ないことが出来るようになるには、やっぱりちょっとした山を越える困難さがつきものでもあって、その困難さが嫌になることも事実だと思います。

 本来は、学ぶことの喜びを味わう感性があるのに、それを封印してしまっているのではないかと思います。その封印を解くためには、勉強をする『動機付け』はとても大切な事だと思います。だから、自分のためや、受験のためといったものでも、動機付けになれば良いのかもしれません。でも私は、きっかけはどうであっても、何のために勉強するのかという問いに対する答えの一つに『世のため人のために』という考えを少しでも持てることができれば良いなと思っています。

人は一人では生きていけない

 私たちは色々な繋がりの中で生きています。身の回りにある物や食べ物、衣服や移動手段など、必ず誰かが考え作り出したものがあって、生活していくことができています。一人ひとりの活動によって、今の自分の生活があるわけです。当たり前に『ある』わけでなく、誰かのおかげで『ある』のです。

 またモノだけでなく、色々な心の変化をもたらすのもヒトとの繋がりにおいてです。嫌なことや辛いこともありますが、楽しいことや幸せを感じるのも、他人がいてこそです。もし、この世界にたった自分一人しか存在していなかったら、物心両面において考えてみても、私たちは生きていくことはできないのではないかと思います。

 そう考えると、自分が学ぶことでヒトを幸せにすることもできるわけでして、何か世の中の役に立つこともたくさん出来るようになるかもしれません。一人ひとりがそうやって、世のためヒトのために学び、可能性を広げることができれば、それぞれの相乗効果によって、世の中はもっと素晴らしい世界になっていきます。というより、そんな想いをもった先人たちによって、今、素晴らしい世の中はできてきたのです。色々と課題や不穏なこともあるのも事実ですが、私たちの世界は、こうした『世のためヒトのためと思う』人たちによっても作られてもきたと思います。(そうでない人たちによって作られている面との両方があるとも思いますが…)

 自分のために勉強する、という考えが主流になってしまうと、相乗効果は生まれにくいと思います。自分のためだけの世の中になると、幸せを感じることが少なくなってしまうとも思います。経営者としての視点で考えると、商売でも同じことで、自分だけが儲かるためと考えると上手くいきません。取引先やお客さま、それぞれがより良くなるためにという姿勢が必要なのではないかと思います。だからこそ、自分だけという考えが主流にならないで、誰かのためにという考えが主流になってほしいと考えています。

 今の私は、教育業界から離れた場所にいますが、久しぶりに『教育』について語り合った時間は懐かしさと楽しさがありました。また学校教育だけでなく、本当は家庭での親と子供の接し方でも、大きく変わっていくだろうなとも思います。とはいえ、学校教育というのは、子供たちの成長に大きな影響力を持っていると思います。かつて同じ職場で働いた朋(とも)が、『探究』という授業の中で、将来の日本を担う、素晴らしい人財育成をしていきながら、彼もまた充実した人生を歩んでいって欲しいなと思います。楽しい時間を過ごせた再会の機会を作ってくれたことに心から感謝です。

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